
スマホアプリ分析プラットフォーム「App Ape」を提供するフラーは、全世界を対象としたセルフサービス式App Apeプランの販売を開始しました。なぜ、フラーはセルフサーブに踏み切ったのでしょうか?CEOの渋谷修太に裏側を聞きました。(敬称略、聞き手・App Ape Lab編集部・日影耕造)
渋谷修太
「データは言語の壁を超える」
ーーいつ頃からセルフサービスによる全世界での販売を考えていましたか?
構想自体はずいぶん前からありましたが、2月に開いたApp Ape Awardが背中を押す大きなきっかけとなりました。日本のIT企業として米国に進出するメルカリの小泉さんらとお話をする中で、日本のIT企業をもう一度グローバルにしたいとの思いが強くなりました。その場で「App Ape」の米国版を出すことを2月に開いたApp Ape Awardで宣言し、セルフサービスの実現に向けても動き出しました。
ーーなぜセルフサービスという販売形式を採用したのですか?
フラーが海外展開を今後強力に推進するにあたって、セルフサービスは切っても切り離せないからです。
仮に韓国、米国、アジア諸国と販売可能なデータが増えていった場合、各国で対面営業を行う体制を整えることは、人員的にも時間的にも莫大なリソースを必要とします。
一方、セルフサービスであれば、インターネットという草原の上にサービスを置いて、世界中の人に自由にサービスを使ってもらいながら、全世界のユーザーからのフィードバックを受けながらプロダクトのブラッシュアップやサポートをすることができます。
また、「App Ape」特有の大きな強みとして、サービスの「言語依存度」が低いことも、セルフサービスを推進する大きな要素となっています。
データというものは数値のため、基本的には言語に依存しません。データに関して言語が影響するのは、タグやアプリ名くらいです。
それゆえに全世界で共通の価値があり、言葉の壁を超えて日本のプロダクトを世界に訴求できる可能性が広がります。
日本のIT企業がグローバルでの成功例が少ない理由は、言語の壁にあると思います。でも、App Apeのデータは、その壁を乗り越えられます。
グローバルであるからこそ「App Ape」のデータの強みが生かされるし、これまで以上に多くのユーザーがアクセス可能なプロダクトとなることを確信し、セルフサーブを採用しました。
攻めの姿勢で「まずは出す」「ゼロからイチに進む」

ーーなぜ今のこの時期にローンチしたのですか?
市場環境を分析したり、実際のプロダクトの開発や利用環境の整備など数多くの壁がありました。その壁を超えるため、チームのメンバーのみんなが本当に頑張ってくれて、最短でクリアした結果が今回のローンチ時期でした。
まずは「出す」というベンチャーの攻めの姿勢を今回は今一度思い起こし、できる限り早く、最小の力で0から1の一歩を踏み出すことを第一に考えました。
困難な状況を克服して奮闘してくれたフラーのメンバーには本当に感謝しています。
ーー走り出しの販売状況はどうですか?
僕が思っていたよりも数倍いいですね。
ローンチして1、2週間で、すでにデータが売れているんです。国内だけでなく、海外でもです。アプリのデータにニーズがあることを、今まさに実感しています。日本国内だけでなく、韓国、米国など世界中の人達がデータを見ているんですよ。すごくワクワクします。
すべてのスタートアップがそうだと思うんですけれども、売り上げゼロから早く脱出してイチの状態にすることがすごく大変なんです。
もしまったく売れないゼロの状態であれば、価格がダメなのか、導線設計なのか、使い勝手の問題なのか、データの内容なのかなど、何がダメなのかまったくわからないですよね?
でも今回は、まだ一つ一つの要素は60点かもしれないけれども、ゼロからイチに進むことができています。「App Ape」を使っている人がもうすでにたくさんいるのです。そういう意味では、個人的には割と雲が晴れたような気持ちでいます(笑)。
これだけの短期間でセルフサービスの成果が出てきて、これからプロダクトをどうブラッシュアップしようかというフェーズに早くも到達しつつあります。本当にすごいことだし、ものすごく大きな意味があるし、めちゃくちゃ面白い時期だなと思います。
ユーザー規模は「掛け算」で拡大する

ーーセルフサービスをローンチしてみてわかったことは何かありますか?
たくさんあります。特にすごくよかったのは、ユーザー規模は、提供可能なデータの国数と利用可能なお客様の国数の「掛け算」で決まることが分かったことです。
例えば、韓国のお客様が米国のデータを買ったり、米国のお客様が日本のデータを買ったりということがセルフサービスではすでに実際に起きています。
データとお客様の国数が多ければ多いほど、掛け算の答えであるユーザー規模は大きくなるのです。
今後は提供可能なデータの国数を増やしていくことに注力したいと思います。利用可能な言語も追加します。双方を拡大して掛け算していったら、App Apeの未来はもっと面白くなると確信しています。
ーー価格もこれまでにないくらい抑えましたね。
これは究極的に正解はないと思っていますが、より多くの人に使ってもらえる適正価格をメンバーが真剣に考えて設定しました。
ゼロとイチの違いの話をまたするんですけれども、実は、今回のセルフサービスの価格設定の議論の中で「無料がいい」という意見もありました。
無料で使ってもらうのと有料で使ってもらうユーザーというのはすごく違うと僕は思っています。タダだから使うというのと、お金を払って使うというのの熱量の差分は、値段の差よりも大きいと思い、価格を設定しました。
それでも、価格設定については「振り切ったなあ」という思いです(笑)。
成功体験を捨てて「学び直し」

ーーこれからグローバルで成功するには何が重要だと考えていますか?
成功体験を捨ててマインドを白紙に戻すことが重要だと思っています。
僕らはこの数年で日本国内で「App Ape」を販売してきて、成功体験もある程度整ってきて、こういう人がこういう使い方をするのでないかという知見が溜まっています。
でも、グローバルに目を向けると、その成功体験が良くも悪くも影響を及ぼすことがあると思うんです。
実際、グローバルで展開をはじめてから、ユーザーさんから学ぶことがすごく多いです。セルフサーブを利用いただいた企業の名前を見て、こういう企業がアプリをもっているのか!とか、僕らが予想もしなかった企業にご利用いただいたりとか、日本よりも韓国の企業の方がアメリカのデータを見ているとか、気づきがたくさんあります。
セルフサービスを契機に僕らも原点に立ち戻り、サービスを世に出すことで市場にデータの価値やニーズを問いかけ、お客様の声やニーズを丁寧に汲み取りながら、アプリのデータやApp Apeについて学び直したいなと思います。
そして、集まった知見をデータとして蓄積して自分たちのセルフサービスを分析してさらに良いプロダクトを目指したいです。お客さんの動きやニーズもデータにして、データドリブンな施策を展開するということです。面白いなあと思います。まさに学び直しですね。
ユーザーは「二次関数的に高まっている」

ーー世の中にデータの魅力や価値を伝える上で、当面のテーマは何ですか?
セルフサービスの有料版のユーザーを増やしていくということです。
実は、この1年間で「App Ape」全体の登録者数は7倍以上に増えたんです。二次関数的に増えていることに驚きを覚えています。セルフサービスのローンチ後、有料アカウントも増えていて、転換点だとな思います。
登録者数が増えているということは、その中の無料登録ユーザーがお金を出してデータを見たくなる可能性も高まっているということに他なりません。
無料登録のユーザーにいかにデータを活用する価値や魅力を伝え、実際に使ってもらえるようにするかが重要になります。
ーーどうしてこの1年で登録者数が急増しているんのでしょうか?
サービスの観点でいうと、「App Ape」で提供できるデータの国数が増えているということ、特にアメリカのデータが見れるようになったことが大きいです。データを提供できる国数が増えれば、データを見たい人の母数は増えますので。
スマホアプリ業界全体を見渡すと、スマホアプリというものが今年に入り、驚異的に見直されていると言うことです。
要因となる大きな動きとしては3つあると思います。
一つはゲームの世界で「コトダマン」のようにセガさんみたいな会社が自社IPを本気で使ってゲーム領域を伸ばしに行くことが起きていることです。
もう一つは、「Tik Tok」に代表される外資系のアプリの台頭です。Tik Tokは今、ユーザー数が毎週、過去最高記録を更新しているんです!驚異的です。また波が起こったなと思っています。
一方で、今年は大企業のマーケティングとしてのアプリ活用がついに進み始めました。直近だとセブンイレブンさんがアプリに非常に注力していて、これは大きな動きだなと思っています。
みなさんが気づき始めたんです。アプリでビジネスが成功する道が間違いなくあることに。
そういう意味では、同業の競合アプリの動向を見るというのもありますが、可処分時間の奪い合いの中で、異業種で成功しているアプリのデータを見てもらって、それぞれのアプリ施策に生かしていく方向にいかに導くかが大切だと思っています。
ゲームが動画アプリから学んだり、ゲームの仕組みからO2Oアプリが施策を練ったりといったことがまさに差別化であり、成功要因になってくる時代になります。
さらに今後は、「App Ape」で提供する海外のアプリ利用データから面白いものを見つけて、施策を日本向けにフィットさせて成功するという事象も続々と生まれてくると思います。
プレミアムなクライアントへ「究極のカスタマイズ」

ーー既存のApp Apeのサービスは今度どう展開していくのでしょうか?
レベルを一段上に昇華させます。我々は「プレミアムクライアントサービス」と呼ぶことにしました。
常にアップデートされていく業界のリーディングカンパニーのニーズに対し、「App Ape」のデータの「究極のカスタマイズ」をしていきます。
モバイルのデータに関してはAPI、カスタマイズした指標の制作など、どんどんニーズを吸収して、どの会社よりも新しく、詳しく、内容の濃いサービスをプレミアムクライアントサービスのユーザー様には提供していこうと思っています。
なので、要望をどんどんぶつけていただきたいです。イメージは、自動車で言えばレクサスのようなイメージで、常にプレミアムな体験を届けていきたいです。
プレミアムクライアントサービスのお客様の使い方が時代にフィットすれば、それをグローバルに展開します。逆にグローバルな使われ方の中で、世の中で注目されている利用動向をプレミアムな方々に伝えていくという相乗効果も図れるはずです。
「提供データと言語増やす」「グローバルに知ってもらいたい」

ーー今後の目標はありますか?
提供するデータと言語の国数をどんどん拡大していきたいです。
どこの国でどういうニーズがあるのかは、セルフサービスをローンチするまで予測がつかなかったので、できるだけ多く、100カ国とかですかね(笑)。
ーー100カ国!
数年以内には出したいですね。
向こう1年のスパンでは、10〜20カ国のデータと言語をそろえ、世界を相手に販売できればと思っています。
データを購入していくれるお客様が増えれば、お客様がどういうデータを見ているのかというところから、ニーズが見えてくるかもしれませんしね。
今はいろいろな試行錯誤をしている段階でです。初月半額やクーポンコードの発行など、より気軽に利用していただけるプロモーションを打ち出しますので、どんどん使ってもらえれば嬉しいですね。
ーーユーザーへの情報発信はどのように進めますか?
日本のIT企業のグローバル展開に関しては、データを保有する企業だからこそ、グローバルに目を向ける重要性について自分たちが声を出し続けることが重要だと思います。
例えば、韓国の人は日本や米国のデータをめちゃ見ているぞとか、日本の人は日本のデータしか見ていないとか、ちょっとイラっと思われても(笑)、どんどん発信していきたいですね!
今年も大きなカンファレンスを2回実施する予定ですが、いろいろなところで発信し続けることで、共感してもらえる人を増やしていくことが重要だと思います。
ーー今後、App Apeやフラーをどうしていきたいですか?
正直、まだまだ知名度は日韓以外では低いと思いますので、「App Ape」をグローバルに知ってもらいたいです。そのために自分たちが発信を積極的にしていくことが大事だと思います。
フラーという会社全体としては、スマホアプリにもっとも詳しい会社といえばフラーというのを確固たるものにしたいです。そういう思いを込めて、8月24日にはフラーの名前を関したカンファレンスイベント「Fuller Mobile Conference2018」を開きます。フラーがモバイルをリードして周りを巻きこんで市場を作っていきたい。そういう思いが伝わればいいのかなと思います。
Fuller Mobile Conference2018の詳細はこちら

ーー最後に何か伝えたいことがあれば一言お願いします
アプリを抜きにしても、面白いことを「App Ape」はしています。データをマネタイズするSaaSで海外でも使われているものって稀有じゃないですか。
ソシャゲで1回は課金してみよう、VODで一回は課金して見てみようといった感覚で、純粋な興味を持つ人にも一度アプリのデータを見て、使ってもらいたいですね。
そして、フラーはこのように常に成長していますので、現在絶賛人材募集中です。
特にプレミアムなクライアント向けのアプリのサービスを提供したいセールスの方、アプリのデータを極めたいデータサイエンティストの方、データを元にアプリをデザインしたいデザインディレクターの方、募集しています!
いろいろな人が活躍できるフィールドが待っていますので、一緒に作っていきましょう!あ、人材募集で終わっちゃった(笑)。