広告業界のトップランナーが語る、広告費で大損をする話

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注目されたアプリや急成長したアプリを表彰する「App Ape Award2018」。
今回で3回目となる本イベントでは、授賞式の他にも、様々な有識者をゲストに迎えた講演やパネルディスカッションが人気を集めました。

「広告業界のトップランナーが語る、広告費で大損をする話」と題したセッションでは、企業の成長支援を行う株式会社ムーンショットの菅原健一氏をモデレーターに迎え、不正広告の検知・除外が可能なアプリ計測ツールを提供するadjust株式会社の佐々直紀氏、モバイルマーケティングで適確な広告配信やユーザー獲得を提供するLiftoff Mobile株式会社の天野耕太氏、日本の大手フリマアプリ「メルカリ」を運営する株式会社メルカリの飯山秀人氏が登壇。インストール数やクリック数を水増しして不正に広告費用を水増しする「アドフラウド」問題をメインに、それぞれの立場からモバイル広告の現状や課題などを語りました。(敬称略)

株式会社ムーンショット
菅原健一氏
代表取締役CEO

プロフィール:これまでの会社経営やコンサルとして経験したことを元に、企業が10倍成長を遂げるためのアドバイザー業のムーンショットを創業。 過去にはスマートニュースやスケールアウトというDSP(アドテク)会社のCMOをし、KDDIグループへExit。インターネットビジネスの成長を支援。著書3冊。 #新しい働き方 #新しい雇用の仕方

adjust株式会社
佐々直紀氏
Country Manager Japan

プロフィール:2000年4月からデジタルマーケティングに携わり、オンラインモールのキュリオシティ、Yahoo!ショッピング、ショッピングサーチビカム、リターゲティング・DMPのVizuryにてAE、AM、マーケティング業務を経験。2016年1月からTUNEの日本法人の立ち上げメンバーとして、本格的にアプリ計測分野に参入、2016年11月よりAdjustに参画。数々のスタートアップの立ち上げから軌道に乗せた経験を生かし、カントリーマネージャーとしてAdjustの日本オフィスを統括している。

Liftoff Mobile株式会社
天野耕太氏
日本および韓国カントリーマネージャー

プロフィール: Overtureおよびヤフーにおいて配信メディアネットワーク拡大に寄与。その後、インドのInMobiに参画し、黎明期のスマートフォン広告業界において日本事業立ち上げを経験。2012年よりCriteoに入社し配信ネットワーク部門の統括と営業部門の統括を歴任した後、2017年より現職であるシリコンバレーのモバイルDSP、Liftoff Mobile株式会社(リフトオフ)のカントリーマネージャーに就任し、日本および韓国のビジネスを担当。

株式会社メルカリ
飯山秀人氏
User Acquisition/Manager

プロフィール:2015年11月に株式会社メルカリに入社。日米の Growth & User Acquisition に従事し、2019年1月よりマネージャーに就任。前職では、レバレジーズ株式会社にてマーケティング部門の設立や事業部長を経験。

アドフラウドの巧妙化と膨れ上がる損失額

[モデレーターを務めた菅原氏]

菅原:日本では2018年からようやく「アドフラウド」という言葉が認識されてきたように思います。そこで、まずは、広告主という立場であり、比較的早い段階からアドフラウド対策を始めていた飯山氏にお話をおうかがいしたいと思います。

飯山:アドフラウド問題が浮上したのは2017年頃です。弊社では広告運用にかなりの予算を割いているのですが、KPI(評価指数)やCPI(1インストールあたりの広告費用)から、リテンション(継続率)、CPA(購入にかかった広告費用)などあらゆる部分を検討して、最適化をかけてきました。しかし、最適化をかければかけるほど、Organicを含めたトータルの登録者数やインストール数が少しずつトーンダウンしていったんです。

そこで、広告費を効果的に運用するためにはどうすればいいかという根本的な部分を考え始めて、アドフラウド対策の重要さに気づきました。現在は、Adjustさんへ依頼してアドフラウド対策をしっかり行っていますから、業界内では比較的早い段階で取り組めたと思っています。

菅原:「うちとは関係がない」と楽観視する企業もまだまだ多いと思います。広告不正の調査や分析を行っている佐々さん(Adjust)から見ると、昨今のアドフラウドはどのような動きをみせているのでしょうか。

[アドフラウドの巧妙化、複雑化を指摘する佐々氏]

佐々:企業への認識が深まる前に、どんどんアドフラウドが巧妙化、複雑化しているのが現状です。初めの頃は、自社の広告が貢献したと思わせて広告費を奪い取る、アフィリエイトでのインストール詐欺が主な手口でした。これが最近では、インストールを検知した時に、関連した広告を踏んだことにして広告に貢献したように見せかけるケースが増えています。他にも、我々のような計測事業者を騙すために、偽のデータを送ってきてありもしないインストールを演出するという手口も発生していますね。

菅原:データをハッキングするなんてこともあるのでしょうか。

佐々:アプリ広告の出稿には、広告経由でアプリを起動したことが分かるよう、SDKという効果測定を判定するプログラムが実装されているんです。SDKは各計測事業者が運営しているのですが、このSDKからのデータを傍受してインストールしたように見せかける偽のデータセットを送るなんてこともやってしまう。

菅原:広告主にはどのくらいの損失が出ているんですか。

佐々:全体の約20%といわれています。個別のケースで少なくとも10%、多い場合は30%以上です。現在、何も対策をしていない企業であれば、これくらいの損失は受けていると考えたほうがいいと思います。

「イタチごっこ」状態の中で、不正防止のためにできること

菅原:1億円の広告費であれば、3000万円もの損失があるということですよね……。飯山さんの所(株式会社メルカリ)では、どれくらいの損失が発生していたんですか。

飯山:弊社では過去に月6万件の不正インストールが発見されました。被害額でいうと数千万規模になりますね。

佐々氏:この数字にはびっくりしましたよ。しかし、対策が後手に回れば回るほど被害総額が増えていきます。広告主である企業には、とにかく一刻も早い対策をして欲しいと思います。

菅原:天野さん(Liftoff Mobile)はメディアという立場から、こうした広告まわりの問題にどんな対策をされているのでしょうか。

天野:メディアといってもその種類は様々ですが、弊社はその中でも広告運用に対する費用対効果を高めるDSPという立場にいます。そのため、アドフラウドとは間接的な関わりになってしまうのですが、出稿の買い付けにはかなり気をつかっていますね。ユーザー単位なのか配信面なのか、ひとつひとつにフィルターをかけてしっかり管理しています。ただし、どんどん巧妙化するアドフラウドとは「イタチごっこ」の状態で、残念ながら100%の防止策はないんです。しかし、透明性の確保が第一ですから、場合によってはクライアント側へ計測ツールなどを使っていただいて、そこで疑問が生じれば、しかるべき調査を行って対応をしています。

[不正インストール対策について説明する飯山氏]

飯山:対策をする前は、まさに「イタチごっこ」でした。弊社では、多い時で30のネットワークを同時に運用していたんです。その中で、クリックからインストールへかかっている時間などを検証して、怪しいものは排除するなどできることはしていたのですが、ひとつの媒体を止めたとしても、他の媒体で同じことが起こるので、広告主側だけでの対策には限界を感じましたね。そこで、信頼できるDSPやネットワークに絞ろうという結論に至ったんです。

広告主の気づきが透明性の確保へつながる

菅原:ポリシーのない買い付け機能を使っていると、新しいメディアがどんどん出てきて、それを管理監督する労力は広告主へ押し寄せていきますよね。本来、マーケターは攻めのパフォーマンスを出すための運用が目的なのに、いつの間にか広告費を守るための仕事になってしまう。すると、今度は余計な人件費を割くことになる。

佐々:広告主がフラウド(不正)を発見して対処していくことは、実際かなり難しいんです。先ほど、飯山さんは「クリックからのインストール時間を見ている」とおっしゃっていましたが、これだけだと本来の利用者まで弾いてしまっている可能性もあります。広告費や人件費、何より費用対効果を考えると、やはり専門業者へ任せたほうが賢明だと思いますね。

菅原:アドフラウド対策には、広告不正を調査する計測事業者、広告主のパートナーであるメディア、そして広告主の3社がそれぞれタッグを組んで対処をすることが、被害を最小限に抑える最良の手段になるということですよね。しかし、日本ではアドフラウドという言葉すら広く認知されていない状態です。まずは、広告主がこのような不正広告に気づくこと。自衛する意識を持つことが大切ですね。

広告不正に対する海外のリアクション

菅原:ここまでは日本のアドフラウド問題についてお話いただきましたが、海外での現状なども交えて比較していきたいと思います。飯山さんは、以前、アメリカでWebマーケティングをされていたということですが、日本との違いなどはありましたか。

飯山:アメリカではどこのコンテンツにどんな配信面が出るかなど、広告主側がかなりシビアにチェックしていましたね。これは、アドフラウド問題だけではなく、暴力的だったり差別的だったりするコンテンツに自社の広告が出稿されることで、ブランドイメージが低下することを敬遠しているからなんです。日本はこのあたりの警戒がちょっと緩いなと感じました。

菅原:天野さん(Liftoff Mobile)は2017年に日本へ進出して、何か気づいた点などはありますか。

天野:海外だとアドフラウドを含めた広告不正に対して、それぞれの立場から徹底的に排除していこうという姿勢がはっきり見てとれました。

菅原:アメリカでは「会社は投資している株主のもの」という意識が強いので、何かが起こった時は、日本とは比べ物にならないくらいの緊張感がありますよね。ちなみに、アメリカ以外の国でも何か動きはあるのでしょうか。

[海外のアドフラウド対策について解説する天野氏]

天野:韓国は日本と同様にゲームアプリが大人気なのですが、去年、大きなアドフラウド問題が発生して、そこから業界全体の対応が問われる状況になっています。

現在は、不当な請求を年単位でさかのぼって請求するという事態が起こっているのですが、これは、対象者となっている媒体の担当者、被害者であるクライアント、それぞれが使ってきた金額を否定する行為ですから、とてもつらいことなんです。さらに、すでに当事者がおらず、まったく関係のない人間が対応に追われている会社もあります。

菅原:誰もがよく分からない状況で、事実だけが残されている。これは、韓国だからというわけではなく、日本でも十分起こりうる事態ですよね。

アドフラウド排除のために、広告主がやるべきこと

菅原:ここまで海外の事例を紹介してきましたが、日本でも業界全体で意識を共有することが喫緊の課題だと感じました。そうなると、やはり広告主の意識を向上させることが重要なのではないでしょうか。

佐々:アドフラウド対策をすると、全体的に数字が下がる傾向にあります。数字だけを見て不安視する広告主もいるのですが、これは無意味なインストールや登録者が減っただけで、効果が下がったわけではないんです。

菅原:減った数字よりも残っている数字に注目することが大切なんですよね。かえって、不正な数字が排除されて、本来の数字がクリアになったわけですから。

広告運用では、どうしても目先の数字にとらわれがちですが、一番重要なことは流通総額など、その奥にあるものなんですよね。

天野:弊社もそこを大切にしているので、クライアントにはしっかりとした説明をしているのですが……正直、まだまだ課題ではありますね。オーガニックとの数字上の相関性を見れていないクライアントもいるので

飯山:弊社もそこを見誤ったことがあります。現在は、広告運用ではインストールから登録、登録から出品または購入など全体の流れを把握して流通総額を見るようにしています。さらにオーガニックの数字を含めたトータル的なチェックをしているんです。

菅原:佐々さんの所(Adjust)では、アドフラウド問題以外のこうしたトータル的な数字もクライアントへ提供できるのでしょうか。

佐々:弊社の使命は、ノイズのないクリアなデータをクライアントへ届けるということから始まっているんです。データがぐちゃぐちゃだとマーケティングの判断も狂ってきてしまいますよね。その取り組みが派生してアドフラウド問題の対策もしているんです。

昨今では、広告に対して悪いニュースが多く、このままでは信頼性が揺らいでしまう。広告主だけではなく、業界全体にとっての問題となっていますから、これを払拭して健全なイメージを確立するためにも会社を越えた協力が必要だと思います。

菅原:アドフラウド問題は広告費だけではなく、社会的な視点でもその損失を考えていかないといけないということですよね

それでは最後に、アドフラド問題について気をつけてほしいことを一言ずつお願いいたします。

佐々:アドフラウド問題の入り口として、まずは広告主がきちんとデータを見ることです。そして、代理店や媒体へ確認を怠らないこと。そのためにも、まずは自社の対策をもう一度見直してみて欲しいです。

天野:何千万円も広告費に投資しているのに、一切話題にならないというケースをよく聞きます。代理店も媒体もたくさんあって、それぞれに相性があります。広告効果を上げるためにも、依頼する会社の特徴を見て、自社の方針と合う所を探してみてください。

飯山:広告主として、アドフラウド問題の現状は把握しておく必要があります。無駄な出費を抑えたコストの削減は、ビジネスにとって必要不可欠。目先の数字にとらわれず、トータルで考えた時に起こる影響を理解していくべきだと思います。

菅原:個々の企業のためにも、また、社会全体としても、アドフラウドは見逃せない問題です。参加者の皆様にとって、本講演が何かのきっかけになれば幸いです。

本日はどうもありがとうございました。


「アドフラウド」という言葉はまだまだ聞き慣れない人も多いのではないでしょうか。本イベント内でも、菅原氏が会場へ「アドフラウドを知っている人は?」と聞く場面がありましたが、約半数ほどが手を挙げた程度でした。

モバイル広告の運用は紙媒体と違って、様々な手法や数字が発生するため、煩わしいと感じる部分があるかもしれません。しかし、アドフラウド問題を含む広告不正、さらに広告業界の活性化を考えると、広告費用を支払っている広告主が先立って、広告の見直しを図ることが重要です。

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著者プロフィール:ヤマウチカズヨ
大手出版社の書籍編集者からフリーランスのライター、編集者へ。IT関係、車、旅行や美容など趣味を活かして幅広く執筆。最近はバイクにはまっており、暇さえあればツーリングへ出かけている。
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