人材は「無茶ぶり」で育つ。南場智子氏『ヒットアプリを生み出すDeNAの遺伝子』

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多くのアプリ事業者によるセッションが行われた「App Ape Award 2019」。レポートの第一弾は株式会社ディー・エヌ・エー南場智子氏とフラー株式会社渋谷修太による基調講演『ヒットアプリを生み出すDeNAの遺伝子』です。挑戦を続けるDeNAの人材力はどのように培われているのでしょうか?

株式会社ディー・エヌ・エー南場智子氏/フラー株式会社渋谷修太

株式会社ディー・エヌ・エー
南場智子氏
代表取締役会長

南場智子氏プロフィール
1986年、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。1990年、ハーバード・ビジネス・スクールにてMBAを取得し、1996年、マッキンゼーでパートナー(役員)に就任。1999年に同社を退社して株式会社ディー・エヌ・エーを設立、代表取締役社長に就任。2011年に代表取締役社長を退任。取締役を経て、2015年6月、取締役会長に就任。2017年3月、代表取締役会長に就任(現任)。

フラー株式会社
渋谷 修太
代表取締役社長兼CEO

渋谷修太プロフィール
1988年生。新潟県出身。国立長岡工業高等専門学校卒業後、筑波大学へ編入学。グリー株式会社にてソーシャルゲーム最盛期にマーケティング事業に従事した後、 2011年11月フラー株式会社を創業、代表取締役CEOに就任。2016年には、世界有数の経済誌であるForbesにより30歳未満の重要人物「30アンダー30」に選出される。 ユメは世界一ヒトを惹きつける会社を創ること。

ゲーム、ヘルスケア、モビリティ、球団経営からまちづくりまで

南場:こんにちは。私は渋谷さんと同郷(新潟県出身)で頼まれたら断れず、引っ張り出されました(笑)。

私たちDeNAは2019年3月に20周年を迎えました。成功アプリより失敗アプリの方が多いですが、私が誇らしく思っているのは、当社がいろいろな挑戦をしてきたことと、当社の人材です。今日は様々な人材を内外にどうやって輩出しているのかについて、お話できればと思います。

当社グループの事業範囲は皆さんの想像をはるかに超えるのではないでしょうか。アプリ事業の代表はゲームで、オリジナルゲームもありますが、ポケモン、マリオ、ファイナルファンタジーといったIPゲームも共同開発しています。ゲーム以外では今日お話のある「SHOWROOM」や、伸び盛りの「Pococha」などのライブコミュニケーション分野も活発です。

ヘルスケア事業では東京大学医科学研究所とともに開発した遺伝子検査の「MYCODE」や、健康サポートアプリ「kencom」の提供、また、国立がん研究センターと共同で、血液一滴で分かるがんの早期診断の研究も進めています。

モビリティではタクシー配車アプリ「MOV」や、カーシェアリングアプリ「Anyca」など、皆さんも使ったことがあるのでは。

「Anyca」は新卒三年目の社員が提案してきて、私が経営会議で三回ほど「愛車を知らない人とシェアリングなんて絶対しない」と却下したんですがしぶとくて。最終的に好きなようにしろと私に言わせてしまいました。今はSOMPOホールディングスさんとの座組で運営しています。

そして、横浜DeNAベイスターズです。キャンプインし、私も沖縄に2回行ってきましたが、今年は間違いなく優勝できると思ってます。12球団全部がそう思っているのが問題なんですけれど(笑)。

当社は球団だけでなく「球場」の経営も行っています。球場がプロ野球の試合で使われるのは年間70日程度で、残りの280日もどうにぎわいを作るかという責任があります。横浜スタジアムだけでなく、横浜スタジアム周辺地域も盛り上げて行こうと、近隣建物で、スポーツバーやインキュベーションセンターを運営したり、更には横浜市庁舎のみなとみらい移転に伴う再開発も、三井不動産さんらと一緒に取り組んでいます。

このように要すれば当社は様々な事業をしています。私が「ダメ」といっても事業が立ち上がったりもする「幅広さ」が土壌としてあります。それゆえに全体が必ずしも統率されて計画経済的にいっていない面もあり、デメリットもありますが、意識的にこの選択をしています。やる気のある人が思う存分自分の踊りを踊れるステージを用意しようということです。

結果としてDeNAの中にすばらしい人材が育ち、グループ内外に有名な起業家も多く輩出しています。

「人を育てる」のではなく、人は仕事で勝手に育つ

人材をどう育てているのかといつも質問を受けるのですが、「人を育てる」という考え自体が違う気がします。

人は仕事で勝手に育つものです。無茶ぶりして放っておくんです。

元CTOの川崎修平さんは、こんなサービスがあったらいいなとなったら、密室に閉じ込め糖分を提供すると、数か月後にMobageなどの素晴らしいサービスを持って出てきてくれました。

任せ方にもポイントがあります。「この人にお願いしたら50%くらいで成功するかな?」というレベルの仕事を任せ続ける。DeNAで大事にしている考え方です。

うまくいかなかったときはチームで助けますが、それでも失敗するときは失敗します。そうすると仕事に穴があきます。でも、そのリスクは取る。それよりも「人が育たなくなるリスク」を取りたくないということです。ステージ仕事目標、あとは本人に工夫する余地を整えるだけです。

DeNA社員に独立を促す「デライト・ベンチャーズ」始動

南場:最近、ファンド事業であるデライト・ベンチャーズも始めました。

今までDeNAには、大雑把に言うと、マネジメントスペシャリストという2つのキャリアパスがありましたが、3つ目を新たに作りました。それが「独立起業・スピンアウト」です。

もともと社員を閉じ込めておく考えはなく、自由に飛び立つ人はいましたが、これからは優秀な社員のお尻を「起業せい! 独立せい!」と叩いていこう、ということです。デライト・ベンチャーズの資金の半分はそのためのものです。

私は会社を「ザクロ」に例え「ザクロをひっくり返そう」と言っています。閉じた中に入っているつぶつぶが人材や事業で、これを内側に閉じ込めず、つぶつぶを外側にひっくり返す。そうすれば表面積が増えます。ひっくり返すことで外に離れていってしまうものもあるかもしれないけれど、それも含め拡大していこう、表面積を増やそうということなのです。

最近はジュースでしかザクロを知らず、生のザクロを見たことがない人も多いので、星空にも例えています。DeNAという星があって、そこからスピンアウトする人は別の星になるわけです。そういった人と、今までも個人的には仲良くしていたのですが、公式なつながりはありませんでした。それをデライト・ベンチャーズというDeNAの「公式な応援」という形でつながりを作っていこう、星と星をつないでいこうということになりました。DeNAより大きな星が出てくることも心から歓迎します。そういう世界観を実現したいです。

「人材を外に出してしまってDeNAに何かいいことがあるのですか?」と聞かれますが、大丈夫です。まず優秀な人材に出資をしているので、その人たちの成功からリターンを得られます。それ以上に、つながって助け合っていると一社ではできない大きなうねりを築くことができるのです。こんなギャラクシー(銀河系)的なアプローチがこれからの時代に求められているのかなと感じています。

起業で大成功する人いれば、当然そうではない人もいるでしょう。でも「そうでもない人」も実は、起業を通じてめちゃくちゃ成長しているわけです。成功しても失敗してもまたDeNAに戻ってきて社長候補や幹部候補をやってくれる人も出てくるでしょう。お互いにとことん助け合っていけば、そんなつながりもできるんじゃないかなと。このことをこれから5~10年で証明していきます。DeNAがこういったやり方で成功し、日本の大企業も真似をしたら日本は変わるのではないでしょうか。ちなみにデライト・ベンチャーズは同じような志を持った外部の人にも投資して行きます。このつながりはDeNAに閉じたものではありません。

DeNAから社会を変える

私は日本の人材は素晴らしいと思うんですが、企業に関しては二つの問題があると思います。

まず、優秀な人材がまだ大企業に吸い込まれて、そして終身雇用前提で仕事をしていることです。人材の流動性が欠如しているんです。人は一か所、同じ環境でずっと張り切り続けられるのだろうか。だんだんその会社でしか通用しない人材になって行くのではないか。ざくろをひっくり返せないために生産性が落ちている部分が必ずあると思います。これが問題の一点目です。

もう一つの問題はスタートアップの層が薄いことです。DeNAの新卒採用は数万人の応募の中から50~100人を採用し、その後無茶ぶりで成長させていきます。そういった人間をどんどん外に出すことで、本格派のスタートアップを増やしていきます。

日本企業の二点の問題に対し、DeNAのこの取り組みが解決の糸口を提示するものになることを狙っています。

組織のあり方は「振り子」のようなところがある

渋谷:本日はありがとうございます。「Pococha」、「MOV」などヒットアプリはApp Apeでも伸びています。なぜDeNAからヒットアプリが続々生み出されるのですか?

南場:ホームランよりヒットが最近多いですね。でも、それ以上の失敗も量産していますよ。あまり豪語できないんですが。

渋谷:DeNAらしさというか、「DeNAの遺伝子」はどのようなものだと思いますか?

南場:すごくまじめに頑張る人たちで、誠実だと思います。社内のどんなところで行われている会話も、社外に出ているコメントと同じです。それにプラスして相反するように聞こえるかもしれませんが、常に新しいことに挑戦し続けています。挑戦をやめたらDeNAでないというのが共通認識なので。

ゲームなどのエンタメ系サービスもまじめできちっとやる強みを存分に発揮しています。新しい施策は投入直後に反響を分析し手を打ち、またその反響を分析します。超高速PDCAを回しているわけです。ユーザーの離脱予測をAIを用いて行うなど高度な取り組みもしています。

渋谷:様々なアプローチがある中で、全社で情報を共有するようなことはありますか?

南場:組織のあり方は振り子のようなところがあります。事業部それぞれに独自性を追求したいタイミングと、共通のスキルをシステマティックにどの事業部も使えるようにするというのと、そんな分散型と共通機能との振り子でやっているところはありますね。

渋谷:行ったり来たりだと。

南場:そうですね。

会社の所属とプロジェクトの組成は全く関係ない

渋谷:デライト・ベンチャーズを始めようと思ったきっかけは何ですか?

南場:今年度は20周年の年で、様々なプロジェクトが行われたのですが、その中で社員から提案がありました。また、シリコンバレー在住でDeNAの国際事業を率いてきた渡辺大(デライト・ベンチャーズマネージングパートナー)が、日米格差の問題意識から同じタイミングで提案して来ました。

私自身も20年やってきて「DeNAをぶっ壊したい!」と。比喩として適切ではなかったかもしれませんが(笑)。ここまで変わっちゃうの?というくらいのショックを与えてみたいなって、発展的に壊してみたいなと思ったんです。

私は創業者ですし、人の採用に力を割いてきました。入ってもらったらずっとDeNAにいてほしいという気持ちになりますが、そこを180度転換して、失いたくない人材から順に、惜しみなく輩出する。そしてデライト・ベンチャーズは平均5、10%程度の出資をします。エクイティのほとんどを本人にもってもらうことを大切にしています。

渋谷:南場さんは社員が起業し「卒業」していってしまう寂しさとどう向き合っているのですか?私自身もその経験がありますが、応援したい自分と会社のトップとしての自分、二人の自分がいるんです。

南場:私も最初は寂しかったですよ。一緒に机を並べて仕事していましたから。でも今は、会社の所属とプロジェクトの組成は全く関係ないと思っています。あの人の力が必要だと思ったら呼べばいい。「コト」をなす単位が会社じゃなくプロジェクトになるのだから、まったく寂しくないです。それに、経営者同士という関係になるのも面白いですよ。渋谷さんもそうでしょ?


著者プロフィール:石徹白 未亜(いとしろ みあ)
ライター。ウェブサイトビジネスジャーナルでApp Apeによる旬のアプリを聞く『アプリ四季報』連載中。著作に自身のネット依存の経験をもとにした『節ネット、はじめました』、男性向けスーツのすべてがわかる『できる男になりたいなら、鏡を見ることから始めなさい』(ともにCCCメディアハウス)。