「ウェブとの切り分けは?」「コンペはやるべき?」「タレントは誰を使う?」TVCMのプロが語る活用法

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 アプリの認知において今も絶対的な力を持つTVCM。ですが、「効率的なTVCM」とはどういったものなのでしょうか?
「App Ape Award 2019」では自社サービスをCM展開したラクスル株式会社 田部正樹氏ノイン株式会社 千葉久義氏株式会社タイミー 古賀元樹氏による『地上波を制するものはアプリマーケを制す。TVCMのプロが語る活用法』を開催。アプリを活かすTVCMについて活発な議論が交わされました。

ラクスル株式会社
田部正樹氏
アドプラ事業本部 取締役CMO/アドプラ事業本部長

田部正樹氏プロフィール
1980年生まれ。大学卒業後、丸井グループに入社。主に広報・宣伝活動などに従事。2007年テイクアンドギヴ・ニーズ入社。営業企画、事業戦略、マーケティングを担当し、事業戦略室長、マーケティング部長などを歴任。2014年8月にラクスルに入社。マーケティング部長を経て、2016年10月から現職に就任。2018年より、これまでのラクスルの成長を約50億かけてドライブしてきたマーケティングノウハウを詰め込んだ新規事業を立ち上げ、事業責任者を兼任している。

ノイン株式会社
千葉久義氏
取締役 COO

千葉久義氏プロフィール
東京大学理学部卒業。東京大学大学院理学系研究科修了。2011年株式会社電通入社。その後2014年に株式会社Gunosy入社。2016年に同社執行役員に就任。プロモーション責任者としてTVCMをスタート段階から主導。他にも事業計画の策定や外部アライアンス責任者としてKDDIとの共同事業「ニュースパス」、「LUCRA」の立ち上げ、広告事業本部副本部長等を歴任。2019年3月よりノイン株式会社に取締役COOとして参画。

株式会社タイミー
古賀元樹氏
マーケティング統括本部 執行役員CMO/CAO

古賀元樹氏プロフィール
野村総合研究所、その後のスタートアップでのデータ分析経験を活かしてタイミーのマーケティング部門を管掌。TVCMを用いたユーザー獲得や、データに基づくマーケティング活動を推進中。

CM投下で「ラクスル」のGoogle検索検索は5年で20倍に

千葉:まずは軽く自己紹介を。私のファーストキャリアは電通で、2014年にGunosyに入り、TVCMの責任者をしていました。今はノインに移っています。ノインではコスメをECで販売しており、インスタ等のメディアからユーザーを連れてきます。ほかのECさんとちょっと違うのは、どう商品が販売されたか化粧品会社に向けてデータマーケティングを展開しているところです

田部:ラクスルの田部です。元々丸井グループとテイクアンドギヴ・ニーズにおり、2014年にラクスルに入社しました。それまでラクスルはネット印刷の売上が1桁億でしたが、5年で約60億円のマーケティング費用を投下し、2年前に上場しました。そこでマーケティングの責任者をずっとしています。TVCMマーケターというよりは広く経営という観点でCMをとらえています

検索数において「ラクスル」は5年で20倍に伸びましたが、一方「ネット印刷」「印刷通販」は伸びていません「早くて安い印刷と言えばラクスル」という純粋想起をTVCMによって獲得し、検索数を伸ばし売り上を伸ばしてきました

2018年1月からこのノウハウを踏まえTVCMの外販事業も始めています。TVCMをやる側でも提供する側でもありますので、そういったお話ができればと思います。

古賀:私は野村総合研究所やスタートアップでデータに関わる仕事をしており、2018年からタイミーにいます。タイミ―は2018年8月より始まった隙間バイトをマッチングするプラットフォームアプリになり、橋本環奈さんのTVCMを昨年の11月に打っています。

アプリのパブリッシャーがTVCMを行う理由

千葉:本日の講演のタイトルは『地上波を制するものはアプリマーケを制す。TVCMのプロが語る活用法』です。アプリのパブリッシャーにとって、なぜTVCMをやる必要があるのかお二人に伺えればと思います。

田部:一定まではウェブマーケティングでいけると思います。ただウェブマーケティングは「顕在層の刈り取り」であり、ニーズがあるところを刈りとっていくものですよね。CPIやCPAである程度は取れますがいずれ限界を迎えます。知らない人に対し認知を取るのはウェブでは難しく、3,000万くらいを超えるとCPAが高騰するだけになってくる。リーチコストは日本だとまだまだTVCMが最強です。

当社は2014年7月にTVCMを打ちました。ネット印刷というBtoBの渋めの業界で市場規模が600億くらいならTVCMは難しいだろうと当時は思われていました。それでも踏み切ったのは、同年に既にTVCMを始めていたGunosyさんに触発されたんです。

Gunosyさんのニュースアプリは今だと当たり前ですが、当時は「え、何?」という感じでした。これは当社のネット印刷も同じだったんです。ですので「自分たちが何者であるか」をプレゼンするためにTVCMを打ちました。

「ウェブマーケティングでこれ以上の成長は見込めないのではないか」「これ以上にやろうとすると認知を上げていかないといけないのでは」というときにマスの力、TVCMを頼ることが多いのかなと。

千葉:先ほどの田部さんのお話で、2014年当時においてウェブで獲得できる金額は3000万という肌感は分かるんですが、今はもっと増えている感覚があります。

田部:これは(検索数、市場のボリューム)÷競合数みたいなものなのかなと。競合数が多いと限界も早くなる。あとジャンルもあって、人材系のリスティングのワードは高すぎてウェブだと逆に戦えないんですよね。ワンクリックで数千円になってしまう。

ですが、全く新しい概念のサービスや競合のいないサービスならばウェブは使えるのでTVCMはまだまだ先かなと。ウェブをやりきらずにTVCMをしても、ウェブで刈り取りができない。その辺のコントロールは必要ですね。

タイミーがTVCMを急いだ理由とは?~フリルとメルカリ~

千葉:「最初のTVCMをいつやればいいのか?」という相談を私もよくいただきます。タイミーさんが初めてTVCMを打ったのは去年の11月でしたよね。

古賀:当社はTVCMを打った段階で、ウェブの刈り取りを全然終えていなかったんです。今TVCMを打っていいのか社内でも議論がありました。ただ競合がTVCMのテストを地方で流したと情報が入り、うちもやらないとまずいと。

フリマアプリのフリル(現ラクマ)とメルカリがありますが、先行していたフリルはTVCMまで27か月かかったんです。一方メルカリは10か月でTVCMを打ち、認知もユーザー数も逆転したんです。いかに純粋想起を取りに行くかなんですよね。競合の動きにより、TVCMを打たざるを得なかったんです。

TVCMもウェブのようにスモールテストから始めていく

千葉:よく「TVCMはいくらかかるか」という質問も聞かれます。こちら何をやるかによって全然変わってしまいますが、どの程度の出稿が効果的なのでしょうか。さまざまなCMを見てこられた田部さんの知見を伺えればと思います。

田部:テレビって基本関東、関西、中京というグルーピングと、ほかはほぼ県別になっていますよね。関東は一都六県なので初めての企業にとっては高いと感じるでしょうし、関西、中京も同様です。ですので、それを除くローカルエリアで再現性があるかないかをまず検証するのが重要です。

そして、1エリアで認知率を10%くらいまで高めていったときにどういうことが起きるのか。そこで当たったものを少しずつ大きなエリアでも打っていき、関東で勝負をする。関東は一億を超える勝負になりますから。

もちろん商圏的に関東以外では無理な場合もありますが、そうでないならウェブマーケティングのようにスモールテストから始めることをお勧めしています。1,000万かけなくても十分検証できる。ノインさんもそんな感じですよね?

千葉:そうですね。ノインは化粧品ECなので、東京の人なら化粧品は結構どこでも買えますから、我々のサービスを使う必要性がそこまで高くない。地方は百貨店が撤退してたりドラッグストアがなかったりとかしますから。タイミーさんはいかがですか?

古賀:うちは主にTVCMは関東でしかやっていなかったんです。というのも2018年8月サービスリリースで一都三県でサービス展開をして、2019年8月に大阪、福岡で、今月(2020年2月)名古屋に出たくらいでしたので。

千葉:どのくらいのボリュームでTVCMをされたんですか?

古賀:11月25日から12月23日までの1ヶ月弱、ボリュームで言うと2200GRP(Gross Rating Pointの略。広告出稿回数ごとの視聴率を足した数値)を打っています。1日に打てるボリュームって、GRPに対する獲得効率のようなものがあって、100GRPを超えると落ち着いちゃうので、そのくらいまでを目安にしました。

千葉:私も1日のGRP投下量って、とてもうまくいっているTVCMで200GRPくらいがアプリの獲得の限界じゃないかと思っています。田部さんから見ていかがでしょう?

田部:ラクスルはまず最初のTVCMで基本とされている1500GRPを一回打ってみました。ただ、効果が良い番組と悪い番組があって。僕らのサービスはBtoBなので情報番組、ニュース番組、経済番組、ドキュメンタリーなどと相性が良いです。

効果が高い番組は平日だと限られていて10本くらいでしょうか。BtoBの場合は平日が50~60GRPで土日がマックス120~130GRPくらい。B2Cは平日でも200GRP以上打っても効果が伸び続ける場合もあります

一方でBtoBのサービスなのに昼の情報番組で流れていたり、BtoCなのに堅めのニュース番組に流れているケースも結構あります。ターゲットによって獲得効率は全然変わってくるはずですから、それを見極めてどのくらいの量が打てるのか2回目以降は必ずPDCAで回していくことが重要です。

Gunosyさんって深夜にTVCMを流していましたよね、あれって狙いがあったのでしょうか。

千葉:深夜は効率が良かったんです。深夜って0.1%とか信じられないくらい低い視聴率があるので、流しまくれるんですよ。

一度で認知できないCMも、積算すれば認知につながる?

千葉:TVCMにおいて「GRPがある程度詰みあがると認知が高まり、獲得効率が高まる」というのを私は信じていなくて。いいTVCMは流したら一発目から効果がいいし、よくないCMは積算してもよくなる兆しが見えない

田部:おっしゃる通りです。僕自身消費者の立場のとき、TVCMをきっかけに欲しいなと思ったらその場で検索します。ですがそう思わないTVCMを10回見たところで検索したくはならないですよね。

ただBtoBの場合、初見ではよくわからないTVCMを2、3度見て理解することもあったりしますので、BtoBの場合3回目で効果が出るパターンもあります。ただBtoCで、特にアプリなら一発で判断可能ですが。

千葉:タイミーさんは2種類のTVCMをつくられていましたがどちらが効果がありましたか?

古賀:半々で流していて、効果もちょうど半々ですね。

千葉:どういう狙いであの2本にされたんですか?<?span>

古賀:訴求の軸はひとつで「シーン訴求」です。暇な時間に使うとか。最後に単純にサービス名、あとは橋本環奈さんのタレントのパワー、カワイイで押し切りました。

コンペで必要なのは「絵コンテ」でなく「戦略」

千葉:これもお二人に伺いたいのですが「TVCMにおいて代理店代理店さんでコンペする必要があるのか」もよく聞かれるんですよね。

古賀:うちはコンペをしました。ただ、コンペするしないでは社内でも話し合いましたね。コンペでお互い疲弊もするのも分かっていました。ですが初めてのTVCMで今後長くお付き合いする可能性もあったので、しっかり選びたく競合コンペにさせていただきました。

田部:ラクスルとしてはしていません。信頼できる筋からやった方がいいというのと、コンペでアイディアを待っている時間があればその人と議論をして質を上げたほうがいいと思っています。

で、TVCMを初めてやる企業は信頼できるパートナーを決めてやっておいた方が良いと思います。「よく分からないから色々な会社に聞いてみよう」は危ない気もします。

千葉:ただ、信頼できるかどうかがそもそも分からないケースもありますよね。どう見極めればいいでしょうか?

田部:その場合はクリエイティブの絵コンテのような具体アウトプットの前に戦略部分だけのコンペにするのをお勧めします。それで思想や概念だったり、良いチームをつれてきてくれるのかが分かったりしますから。

コストパフォーマンスがいいガッツ石松氏

千葉:そしてこれもよく聞かれるのが「TVCMにタレントを使うべきか?」。個人的にははじめてのプロダクトなら使わなくていいのかなと。タレントのPVみたいになっちゃう。タイミーさんは橋本環奈さんを使っていますがどういった背景があったのでしょうか?

古賀:タレントを使わずコストを小さくしたい気持ちはありましたが、競合が結構多くて。競合が超有名タレントを起用したCMを打ってきたら印象が一気にそちらに行ってしまうと、橋本環奈さんに今回はお願いしました。ターゲット層でもある「20代前半から30代くらいの若者」にも橋本さんは合致していましたし。

田部:千葉さんの「タレントを使わなくてもいい」という部分にはまったく同意で、プロダクトアイディアが優れていて、タレントがいなくても成立するものを追求するのが大前提とは思います。

ですがラクスルも今タレントを使っていますし、他社さんでもタレントを使って成功している事例も多くあります。これには2つあると思っています。まずタレントさんの力ですよね。「デュオ」というクレンジングバームはCMをしているKinKi Kidsのファンが棚の商品を無くなるほど買うそうです。商品やサービスとタレントさんが合っている。タイミーさんも、隙間時間にアルバイトを探す人は橋本環奈さんが好きだろうな、というのはありますよね。

あと、語弊があるかもしれませんが、隙間時間のアルバイトって正直怪しさもあるじゃないですか。信頼性を担保する意味でも橋本環奈さんはいいのではと思います。

古賀:そうですね。単発のアルバイトは怪しいイメージを持たれてしまうこともあるので、信頼感を与えるタレントを選ぶ、というのは判断材料の一つでした。

田部:2つ目として、タレントさんなので、やはり旬のパワーがあるんですよね。ラクスルでは今、のんさんを使っていますが、のんさんは話題になります。

千葉:最後の質問になりますが、他の会社さんのCMをラクスルさんが作るにあたって、絶対にここだけは守らないといけない、もしくはここ外すとまずいというポイントはありますか?

田部:ノインさんのTVCMはいいと思います。まずニーズ゙喚起ができているんですよね。「電車賃があるならコスメ買える」と、見ている人が「自分がそうだ」と自分ごとにさせるニーズ喚起があります。そして2つ目としてプロダクトアイディアがストレートに表現されています。最後にTVCM内にサービス名も入っている。今はテレビ見ながらのスマホのダブルスクリーン状態なので、僕らはサービス名は3回言ってくださいと伝えています。「隙間バイトならタイミー」は名コピーですね。なんの業態かすぐ分かりますから。

この3点があればほぼ外さないと思います。しかし、今あげた3点が真逆になった「ユーザーのニーズが喚起されなくて、プロダクトアイディアがなくて、サービス名もよくわからないCM」ってテレビを見てると結構ありますよね。見ていてこのCMいいなと思うものの、これ何屋だっけ? となると、大体外します。

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著者プロフィール:石徹白 未亜(いとしろ みあ)
ライター。ウェブサイトビジネスジャーナルでAppApeによる旬のアプリを聞く『アプリ四季報』連載中。著作に自身のネット依存の経験をもとにした『節ネット、はじめました』、男性向けスーツのすべてがわかる『できる男になりたいなら、鏡を見ることから始めなさい』(ともにCCCメディアハウス)。